大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

長野地方裁判所 昭和58年(ワ)161号 判決

原告

落合高治

右訴訟代理人弁護士

木下哲雄

被告

株式会社長野放送

右代表者代表取締役

北野次登

右訴訟代理人弁護士

宮澤増三郎

同

宮澤建治

同

山本道典

被告

株式会社タケオ(旧商号 株式会社帝国データバンク)

右代表者代表取締役

後藤義夫

右訴訟代理人弁護士

川上眞足

被告

新興木材株式会社

右代表者代表取締役

石灰憲夫

被告

野村隆

右被告二名訴訟代理人弁護士

宮下勇

主文

一  被告株式会社タケオは、原告に対し、金七〇万円及びこれに対する昭和五八年九月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告株式会社長野放送は、原告に対し、金七〇万円及びこれに対する昭和五八年九月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告の被告株式会社長野放送及び被告株式会社タケオに対するその余の請求並びに被告新興木材株式会社及び被告野村隆に対する請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告に生じた費用の二〇分の一と被告株式会社長野放送に生じた費用の一〇分の一を被告株式会社長野放送の負担とし、原告に生じた費用の二〇分の一と被告株式会社タケオに生じた費用の一〇分の一を被告株式会社タケオの負担とし、右当事者に生じたその余の費用と被告新興木材株式会社及び被告野村隆に生じた費用を原告の負担とする。

五  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告らは、原告に対し、連帯して金五〇〇〇万円並びに被告株式会社長野放送(以下「被告長野放送」という。)及び被告野村隆(以下「被告野村」という。)は昭和五八年九月二日から、被告株式会社タケオ(旧商号株式会社帝国データバンク、以下「被告データバンク」という。)及び被告新興木材株式会社(以下「被告新興木材」という。)は同月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告長野放送

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  担保を条件とする仮執行免脱宣言

三  被告データバンク

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

四  被告新興木材及び被告野村隆

原告の請求を棄却する

第二  当事者の主張

一  原告・請求原因

1  当事者

(一) 原告は、肩書地において、落合材木店の商号で木材販売及び建築を業とするものである。

(二) 被告野村は、被告新興木材の長野営業所の従業員で、かつ、野村商店の商号で自らも木材の販売を業とするものである。

(三) 被告新興木材は、木材の購入及び販売並びに製材を業とするものである。

(四) 被告データバンクは、信用調査業並びにこれに附帯するデータの収集・分析及び提供等を業とするものである。

(五) 被告長野放送は、放送事業、放送番組の制作並びに販売等を業とするものである。

2  被告野村の不法行為及び責任

(一) 被告野村は、原告の信用を毀損する目的で、昭和五七年一二月ころ、被告データバンク従業員廣田四良(以下「廣田」という。)に対し、原告の経済的信用に関して、原告の経営が行き詰まり昭和五八年一月末の手形決済は不可能である旨の虚偽の情報を提供し、被告データバンクをして後述のとおり本誌に本件記事を掲載させるに至らしめた。

(二) 被告野村が廣田に対し提供した原告の経済的信用状態に関する情報が虚偽でなかったとしても、原告と被告野村は、当時、互いに融通手形を交換して資金繰りに利用し合う取引関係にあり、昭和五七年一一月ころ、原告の帳簿を見せた間柄でもあったから、被告野村は原告の経営状態につき守秘義務を負っていたものというべきで、被告野村の前記行為は、右守秘義務に反するものである。

3  被告新興木材の不法行為及び責任

被告野村は、前項の行為を、被告新興木材の事業の執行につき行なったものである。

4  被告データバンクの不法行為及び責任

(一) 被告データバンク長野支店長中林昌三(以下「中林」という。)は、被告データバンクの事業を執行するにつき、被告野村及び金融機関から得た情報に基づき、長野県版帝国情報第二〇四号(昭和五八年一月二一日発行)誌(以下「本誌」という。)上に「落合材木店(戸隠村)……経営行き詰まる、負債一億五〇〇〇万円」との表題の下に別紙記載の記事(以下「本件記事」という。)を掲載した。

(二) 本件記事のうち、表題のすべて及び「山間部という不利な立地も重なり赤字経営が続いていた。」「資金の固定化を招き、多忙な繰り回しが続いたが、融手などで表面を糊塗する杜撰さも目立った。」「営業再開は不可能と見られ、一月末に迫った支払手形約八〇〇万円の決済も不可能なもようから、事実上経営は行き詰った。」「負債は、金融債務七五〇〇万円(含割引)、一般債務七五〇〇万円(内融手分三五〇〇万円)で総額一億五〇〇〇万円内外に達するもよう」の部分は虚偽の事実であって、また、本件記事は全体として原告が倒産したものと理解される内容のものであるため、全体としても虚偽であった。

(三) 本件記事は、一方的解釈や憶測を交えた、断定的内容のものであり、中林は、調査を尽くすべき注意義務を怠ったものである。

(四) 仮に本件記事が真実であったとしても、本件記事は何ら公共の利害に関するものではなく、公益上の必要もない。

(五) 中林は、本誌を不特定多数の者に頒布し、もって公然と原告の信用及び名誉を毀損したものである。

5  被告長野放送の不法行為及び責任

(一) 被告長野放送従業員報道部主任(ニュースデスク)山口慶吾(以下「山口」という。)は、被告長野放送の事業を執行するにつき、昭和五八年一月三一日の一一時三〇分及び一八時三〇分のテレビの各報道番組において、二度にわたり、「民間の調査機関『帝国データバンク』によりますと、今月県下で負債が一〇〇〇万円以上で倒産した企業は、一億五〇〇〇万円をかかえて倒産した上水内郡戸隠村の落合材木店を最高に一七件で、去年九月以来四か月ぶりに二〇件を割った他、負債総額も八億二六〇〇万円と四か月ぶりに一〇億円を割りました。」と不特定多数の者に対して放送(以下「本件放送」といい、このうち、「一億五〇〇〇万円をかかえて倒産した上水内郡戸隠村の落合材木店」の部分を以下「本件放送部分」という。)した。

(二) ニュース放送の内容が事実に反し、名誉を毀損すべき意味を持つかどうかは、一般視聴者の普通の注意と受け取り方を基準として判断すべきもので、これによれば、報道番組における「倒産」とは企業を解体消滅させるものであり、企業活動を維持しつつ、存続させていく「内整理」を含まないと解すべきである。

原告は右意味において倒産していなかったのであるから、本件放送部分は、誤報である。

(三) 本件放送部分の唯一の資料たる「長野県内企業倒産整理状況」の昭和五八年一月報は「倒産」という言葉に「内整理」を含ませて使用しているから、同報は、企業の解体消滅を意味する「倒産」の資料足り得ない。

山口は、右「倒産」という言葉の区別について注意を怠り、原告の営業の解体消滅を意味する「倒産」については資料を有せず、被告長野放送としての取材活動も行なわないまま、原告が企業の解体消滅の意味で倒産した旨報道したものである。

(四) 仮に本件放送部分が真実であったとしても、統計情報において、ことさら落合材木店という固有名詞を摘示する必要はなく、また、戸隠村の一材木商である原告の動向を県下に放送する意義もない。

したがって、本件放送部分は、何ら公共の利害に関するものではなく、公益上の必要もない。

(五) 山口は、本件放送部分を放送し、もって公然と原告の信用及び名誉を毀損した。

6  損害

(一) 本件記事の掲載及び本件放送部分の放送のため、原告には従来の大口の納品先からの注文がなくなり、昭和五八年一月以降契約し着工予定であった建築工事六件も解約されてしまい、原告の売上は激減し、本件記事及び本件放送部分の放送以前原告には年間二〇〇〇万円の所得が存したところ、今日なお原告の業績は回復していない。右損害は五〇〇〇万円を超えるものである。

(二) 本件記事の掲載及び本件放送部分の放送により、原告は、精神的苦痛を被り、これを慰謝するには一〇〇〇万円が相当である。

7  よって、原告は、被告らに対し、共同不法行為に基づく損害賠償請求として内金五〇〇〇万円並びにいずれも共同不法行為の日の後の日である、被告長野放送及び被告野村については昭和五八年九月二日から、被告データバンク及び被告新興木材については同月三日から各支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告新興木材及び被告野村・認否及び主張

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2(一)の事実のうち、被告野村が、廣田に対し原告の経済的信用状態に関する情報を提供したことを認め、その余の事実は否認する。

被告野村は、原告から材木を買受け被告新興木材に転売した右木材を原告方から被告新興木材方に輸送したところ、従来は被告新興木材が原告に対し木材を売り渡していたため、廣田から説明を求められ、自己の信用につき疑いを抱かれることを避けるため、右事実及び右材木の売買代金債務は被告野村の原告に対する貸金債権と相殺した旨説明したものにすぎず、右説明の内容は真実である。

3  同2(二)の事実のうち、被告野村が昭和五七年一一月ころ原告の帳簿を見たことは認め、その余の事実は否認し、その主張は争う。

4  同3の事実は否認する。

5  同4ないし6の事実のうち、同4(一)の事実は認め、その余は知らない。

6  被告データバンクは、他からも情報を収集し、独自に総合判断して本件記事を掲載したものであり、本件記事の掲載は被告野村にとって予見し得るものではない。

三  被告データバンク・認否及び主張

1  請求原因1(一)及び(四)の事実は認め、その余の事実は知らない。

2  同2(一)の事実は否認する。

同(二)の事実については認否がない。

3  同3の事実は知らない。

4  同4(一)の事実は認める。ただし、情報源は被告野村及び金融機関に限らない。

5  同4(二)及び(三)の事実は否認し、その主張は争う。

被告データバンクは、顧客の依頼により信用調査を遂行する過程において、調査先、関係取引先、金融機関などから、原告の経営悪化を知り、更に情報調査を行なった結果、本件記事を掲載したものであって、本件記事は、一部表現に不適切なところも存し、原告が倒産したかのように読み取れるような部分もあったが、大部分原告の真実の状態を伝えるものであった。

すなわち、原告は、昭和五六年に欠損計上の状態で、その後も好転せず、昭和五八年一月には与志本林業株式会社(以下「与志本林業」という。)から仮差押を受け、同月中旬、事実上休業状態にあったものである。

また本件記事掲載のための資料を収集した被告データバンク従業員丸山は、昭和五七年一月一二日、原告の妻に電話をかけて、経営状態を確かめ、また、融通手形利用割合等原告の経営状態については十分調査している。

6  同4(四)の事実については認否がない。

7  同4(五)の事実は否認する。

本誌は、被告データバンクに対し講読の申し込みをして会員と認められた特定の限定された者に対してのみ頒布されるものである。

8  同5の事実は知らない。

9  同6の事実は知らず、損害の発生については争う。

被告データバンクは、昭和五八年二月一日、本件記事の表現に不適切な部分の存したことを認め、同月七日に長野県版帝国情報号外版を約一一〇〇部発行して訂正記事を掲載し、これを長野県版帝国情報の全講読者に直ちに配布し、また、原告方に赴き、原告の要求する二〇部を手交し、本件記事の表現に不適切な部分の存したことを周知徹底させることに最大限努力した。

よって、原告には損害が発生していない。

10  本件放送は被告長野放送が独自の判断でなしたものであるから、被告データバンクには責任がない。

四  被告長野放送・認否及び主張

1  請求原因1(一)、(四)及び(五)の事実は認め、その余の事実は知らない。

2  同2の事実は知らない。

3  同3の事実は否認する。

4  同4の事実のうち、同(一)の事実は認め、同(二)、同(三)及び同(五)の事実は否認する。同(四)の事実については認否がない。

5  同5(一)の事実は認める。

なお、本件放送は、被告長野放送従業員放送記者太田耕司が執筆し、山口が加筆修正したうえ放送原稿とし、被告長野放送従業員アナウンサー林勇が放映したものである。

6  同5(二)及び(三)の事実は否認する。

(一) 「倒産」という概念に「内整理」(企業の経営が行き詰まり、そのままでは存続が不可能となり整理をしなければならない状況)が含まれ、これが企業の存続が計られる場合を含むことは、公知の事実であるところ、原告はこの「内整理」の状況にあり、与志本林業の援助により手形の不渡事故を起こさずにすんだものにすぎないから、本件放送部分の内容は真実である。

(二) 本件放送は、被告データバンク(昭和五六年三月まで株式会社帝国興信所)が長野県庁内の県政記者クラブに対し毎月末日配布している「長野県内企業倒産整理状況」の昭和五八年一月報をそのまま採用し放送したもので放送の中で取材源が被告データバンクであることを明らかにし、「落合材木店がデータバンクの調査によると倒産したとされている」旨を放送したものにすぎないから、本件放送部分は真実である。

(三) 本件放送は、月末に当月分の長野県内企業の倒産整理状況を統計情報として放送したものであって、個々の企業の倒産整理の事実自体を放送する趣旨ではないから、被告長野放送の従業員には原告本人らに対し更に裏付け取材すべき義務はなく、したがって過失もない。

7  同5(四)の事実については認否がない。

8  同5(五)の事実は否認する。

9  同6の事実は知らず、損害の発生については争う。

被告長野放送は、昭和五八年二月二日、午後六時三〇分のニュース番組において、「ここで訂正とおわびをさせていただきます。先月三一日のニュースで一月の企業倒産状況をお伝えしましたが、その際、帝国データバンク調査によるものとして報道した上水内郡戸隠村の落合材木店の倒産については、本社調べの結果、誤りとわかりました。訂正しておわび致します。」と訂正放送をした。

よって、原告には損害が発生していない。

第三  証拠<省略>

理由

一被告野村に対する請求について

1  請求原因1の事実(当事者)は、当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、被告データバンクは、明治三三年に創業され、企業の信用調査や出版物の販売などを業とし、帝国銀行会社年鑑、帝国情報などを発刊する会社であることが認められ、この認定に反する証拠はない。

2(一)  請求原因2(一)の事実のうち、被告野村が被告データバンク従業員廣田に対し原告の経済的信用状態に関する情報を提供したことは、当事者間に争いがない。

(二)(1)  <証拠>によれば、次の事実を認めることができ、この認定に反する<証拠>は措信することができず、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(ア) 被告野村は、昭和五八年一月ころ、廣田から電話で原告の経済的信用状態を尋ねられて、廣田が被告データバンク従業員であることを知って、原告から木材を買い受け、この代金債務と原告の負担する手形債務とを相殺した旨及び原告方から原木、自動車及びコンプレッサーが引き上げられているから一月の手形決済は不可能であろうと話したこと

(イ) 被告野村の右談話のうち、同被告が原告から木材を買い付け、この代金債務と原告の負担する手形債務とを相殺したこと及び原告方から原木、自動車及びコンプレッサーが引き上げられたことは、原木の全部が引き上げられたわけではないものの、おおむねその趣旨として真実に合致したことであること

(2) 右(イ)の事実を前提にした場合、被告野村が、原告にとって一月の手形決済が不可能であろうと予想することは情報提供者としての個人的意見ないし判断の表明としては、それなりの根拠があり相当であるといい得るから、野村が廣田に対し提供した原告の経済的信用状態に関する情報は、おおむねその趣旨として真実あるいはこれを基にした予想として相当なものであったということができる。

よって、被告野村が廣田に対し虚偽の情報を提供したとの原告の主張は認めることができず、また前記予想は後述のとおり結果的には誤ったけれども、同被告に虚偽の認識があったとは認められない。

(三)  すすんで、本件が、おおむね真実の経済的信用状態に関する情報を提供することが禁じられていた場合にあたるか否かについて検討する。

(1) 請求原因2(二)の事実のうち、原告が被告野村に対し昭和五七年一一月ころ原告の帳簿を見せたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、次の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

原告と被告野村との間には昭和五〇年ころから木材の販売に関し継続的取引関係があり、互いに融通手形を振り出していたが、被告野村は、昭和五七年一一月末、原告に対し、木材の買受代金債務と原告の負担する手形債務を相殺しようとしたところ、原告からそれでは廃業する旨告げられたため、手形金回収の目的から、更に融通手形を振り出して原告に九〇〇万円の資金を融資し、原告の資金繰りについて助言していたこと

(2) ところで被告データバンクを含む信用調査及びその提供を業とする会社の現代社会における機能に照らし、その従業員たる情報収集者に対し、企業の経済的信用状態について情報を提供することが一般的に禁止されているとは解されず、道義的責任をこえて「企業の経済的信用状態について口外しないようにすべき義務」(以下「守秘義務」という。)を私人が一般的に負っているということはできない。

そして、被告野村と原告との間に守秘義務の発生を内容とする合意あるいは委任、雇用等被告野村が原告のために何らかの行為をすることを内容とする旨の合意がなされ、その合意の性質から付随的義務として守秘義務が発生する場合等特別の事情があれば格別(右場合にあたると認めるに足りる証拠はない。)、前記(二)(1)及び(三)(1)で認定した事実をもっては、未だ被告野村が原告に対し守秘義務を負っていたということはできない。

(四)  したがって、被告野村には守秘義務も認めることができないから、これを前提とする原告の被告野村に対する請求部分も、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

(五)  また、本件記事は、落合材木店の経営状態につき、将来の予想を含む内容であるところ、<証拠>によれば、本件記事の内容を決定するにおいて、被告野村からの情報は被告データバンク従業員らが収集した情報の一部にすぎず、被告データバンク長野支店長中林の判断で本件記事の内容が決定され掲載されたものと認められ、この事実に反する証拠はないから、本件記事の内容、特に将来の予想にわたる部分と被告野村の前記情報提供との間に、相当因果関係があるということもできない。

二原告の被告野村に対する請求に理由がない以上、原告の被告新興木材に対する使用者責任に基づく請求も理由がない(なお、被告野村の情報提供が被告新興木材の事業の執行につきなされたものと認めることもできない。)。

三被告データバンクに対する請求について

1  当事者について

請求原因1(一)及び(四)は、当事者間に争いがなく、同1(二)及び(三)は<証拠>により、同1(五)は<証拠>により、それぞれ認めることができ、この認定に反する証拠はない。

2  請求原因4(一)の事実(本件記事の掲載及び職務性)は当事者間に争いがない。

3  請求原因4(二)の事実(本件記事が虚偽であること)について検討する。

(一)  前記認定事実、<証拠>によれば、次の事実を認めることができ、この認定に反する<証拠>は後に述べるとおり措信することができず、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(1) 原告は、昭和五五、五六年ころから経営不振となり、被告野村は、昭和五七年一二月、原告に対する卸業者であるにもかかわらず逆に原告から木材等を買い受けてこの代金債務と原告の負担する二〇〇〇万円の手形債務とを相殺して自己の債務を保全したこと

(2) 与志本林業が申請した原告所有の不動産に対する仮差押の登記が昭和五八年一月一三日になされ、同月、甲州屋が自己の債権を事実上保全するため原告方から二トントラックで一〇〇〇万円相当の製品及び機械を引き上げたこと

(3) 甲州屋の右引き上げ等のため、原告は、昭和五八年一月中旬からは休業状態となったが、同月末が満期の手形を不渡にはしなかったこと

(4) 原告は、吉原木材株式会社から融資を得ようとして、昭和五八年一月五日、原告所有の不動産に根抵当権を設定したが新たな融資を受けることはできなかったこと

(5) 原告は、昭和五八年二月二四日、原告所有の不動産に与志本林業の根抵当権を設定し、与志本林業から資金援助を得て、同年三月、操業を再開したこと

(6) 原告は昭和五四年ころ山間部の戸隠村に自宅を建築しているが、他には資金の固定化を招く事情は窺われないこと

(7) 廣田は、原告の取引先銀行から、同銀行から原告への融資が見込まれない旨の情報を得たこと

(8) 原告は、被告野村、蟻坂工務店及びウチダアキラから、融通手形の振り出しを受けていたこと

(9) 昭和五七年一二月末の時点で原告の負債総額は、一億二〇〇〇万円程度であったこと

(10) 原告は、当時、手形不渡事故を起こしておらず、破産申立、債権者集会の開催などの行動もとっていないこと

(二)  右認定に反する原告本人尋問の結果部分(たとえば、昭和五八年一月当時、二、三〇〇〇万円くらいは手持資金が存し、経営は苦しくなかったなど)は、同じく原告本人尋問の結果により認められる次の事実、すなわち、原告は本件記事には抗議をしているが甲州屋に対しては抗議あるいはその手持資金で操業を再開できるよう交渉する等の対策を講じていないこと、一月中は休業状態で、営業を再開したのは同年三月になってからであることに照らし、とうてい信用することができない。

(三) 前記各認定事実によれば、本件記事は、経営状態の評価及び将来の予想部分以外の個々的事実記載部分に関しては、おおむね真実に合致していたということができる。

しかし、本件記事の表現に不適切な部分が存したことは、被告データバンクも自認するところである。

そして、本件記事のうち「今後、営業再開は不可能と見られ、一月末に迫った支払手形約八〇〇万円の決済も不可能なもようから、事実上経営は行き詰まった。」という部分は、当時における経営評価及び将来の予想として書かれたもので、本件記事は全体として、もはや原告が営業を継続していくことはできないという趣旨に受け取れるものであったということができる。

また、本件記事のうち、「資金の固定化を招き、多忙な繰り回しが続いたが、融手などで表面を糊塗する杜撰さも目立った」という部分は、判断と評価にわたる部分を含むが、その判断の根拠は必ずしも明白ではなく、原告の経営手腕に対する批判を含む表現としても不適切なものであったということができる。

したがって、結局、本件記事は、全体として原告の企業解体としての意味における倒産を印象付け、これを意味するものといえるところ、原告は休業状態にあったとはいえ企業解体としての意味における倒産には至っていなかったのであるから、中林は、十分な調査をすることなく前記のような経営評価及び将来の予想をなし本件記事を掲載したものというべきであり、後記のような性格を有する本誌に本件記事を掲載する以上、相応の調査義務があるというべきである。

よって、中林には、右調査を尽くすべき義務を怠った過失があり、被告データバンクは使用者責任を負う。

4  <証拠>によれば、本件記事を掲載した本誌は、被告データバンクの契約者である情報会員に対し、当時一一〇〇部程度配布したと認めることができ、この認定に反する証拠はない。

一一〇〇部という多くの部数を配布していれば、その配布の直接の相手方が会員に特定されていたとしても、その会員の間で厳格に秘密が保たれる特別の事情があれば格別通常は第三者に伝播するものというべきであるから、本誌の配布をもって本件記事を不特定多数のものに流布したということができ、したがって、被告データバンクは、誤った情報の流布により原告の信用を毀損したものということができ、その余の点について判断するまでもなく、被告データバンクは損害賠償責任を負う。

5  原告の被った損害

(一)  原告は、被告データバンクと被告長野放送が連帯して不法行為に基づく損害賠償責任を負うとして請求しているが、原告は、被告データバンクと被告長野放送の行った共同不法行為の事実を何ら主張していないから、原告の被告データバンクに対する単独の責任として検討する(本誌上、本件記事に被告長野放送が加功した事実は全く認められずまた、後記のとおり本件放送は被告長野放送の固有の行為と認められる)。

(二)  本件記事の内容に照らして、本件記事が掲載された本誌が頒布され、本件記事が不特定多数に流布されたことにより、原告が相当の精神的苦痛を受けたものと認めることができる。

そして、<証拠>によれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

原告は、昭和五八年一月三一日本件放送がなされたことを先ず知り被告長野放送へ抗議に行った後、得意先から本件記事の掲載を知ったこと、原告が被告データバンクに対し抗議に行ったこと、被告データバンクは、同年二月七日、長野県版帝国情報号外版を約一一〇〇部発行して、「落合材木店(戸隠村)……営業続行」との表題のもとに左記内容の訂正記事を掲載し、これを長野県版帝国情報の全講読者に頒布し、原告方に赴き原告の要求した二〇部を手交したこと

記

既報第二〇四号において、一二月末S社が一方的に債権債務の相殺、債権者二社の原材料、製品の引き上げによって、一月休業状態に入った。そこで一月末支払手形約八〇〇万円の決済不可能なもように記載したが、一月末支手決済し、手形事故は全く無かった。

また二月からは支援協力者があって再開操業し、続行。

以上の通り第二〇四号において、あたかも落合材木店が倒産したかのような経営行き詰まるとした記事は間違いであります。

ここに深くお詫びして訂正させていただきます。

(三)  以上の事実、特に本件記事の内容、訂正記事が頒布されるまでの期間、本誌の講読者が一次的には被告データバンクの会員であること等諸般の事情を勘案すると、原告が、本件記事により経済的信用を毀損されたことにより被った精神的苦痛に対する慰謝料は七〇万円をもって相当と判断する。

(四)  なお、本件記事が頒布されたために、原告が営業利益の点で損害を受けたと認めるに足りる証拠はない。

四被告長野放送に対する請求について

1  請求原因1(一)、(四)及び(五)の事実は、当事者間に争いがない。

2  同5(一)の事実(本件放送及び職務性)は、当事者間に争いがない。

3  同5(二)及び(三)の主張について検討する。

(一)  <証拠>によれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(1) 本件放送は、被告データバンクが報道機関に渡した「長野県内企業倒産整理状況五八年一月報」(丙第一号証、別紙抜粋参照)に基づいて被告長野放送従業員太田耕司が執筆し、被告長野放送従業員ニュースデスクの山口がその責任において加筆修正したうえ放送原稿とし、その原稿を被告長野放送従業員アナウンサー林勇が放映したものであること

(2) 山口は、原告に対する事実の確認は必要がないと考えて確認をとらず、また、放送原稿を決定する際、原告が不渡事故等を起こしたと誤信していたこと

(3) 長野県内企業倒産整理状況五八年一月報は別紙抜粋のとおり、一月中の主な倒産として四件挙げているが、その倒産という意味に内整理が含まれる旨(尤も、本訴上、内整理の定義自体、関係者間で一義的ではないことが認められる。)その表題下部に表示しており、具体的な原告の経営状況の記載内容としても、原告が行き詰まった旨記載するのみであったこと

(4) 本件放送は、「県内の倒産整理状況」として放映されたものの一部であって、県内の倒産整理状況を放映する目的は長野県下に同県内の経済状況、景気、企業経営の様子といったものを知らしめるため、経済ニュースの一環としての一般的統計情報を放映することにあり、個々の企業の倒産原因、倒産に至った経過というものを放映する趣旨のものではなく、したがって、特定企業名を明らかにする必要のない性質のものであって、被告長野放送は、本件放送後は一般的統計情報としては企業の固有名詞を放映していないこと

(二) 右事実を前提として、本件放送内容を決定した山口の過失について検討する。

(1)  本件放送は信用調査機関である被告データバンクの調査結果を、その調査結果であると明示して放送されたものであるところ、その放送内容を決定した山口には、被告データバンクから提供された情報から放送原稿を作成するに際し、文言の選択及び情報内容の要約においては、情報内容(調査結果)と放送により視聴者が理解する内容(放送内容)とに食い違いが生じないよう注意する義務を負っていると解するべきである(なお、提供された調査結果自体が正しいかについての被告長野放送の調査義務についてはここでは触れない。)。

しかも、明らかにする必要のない原告の名を挙げる以上は、特に原告に関係する内容が誤った趣旨で要約されたことにならないか注意する義務を負っていたというべきである。

(2)  そして、倒産という概念には企業が解体消滅する場合の他に、経営が行き詰まり、会社更生法の適用を受けたり経営規模を縮小する等して企業の存続が図られる場合も含めることがあるが、テレビによる放送は、一般的に瞬時かつ印象の強いもので、特に経済一般の統計情報の報道番組では断定的な印象が強くなりがちであるため、本件放送の文脈では、「倒産した落合材木店」との表現は、原告が破産し、あるいは手形の不渡事故など起こして、落合材木店としての経営を今後存続できなくなってしまったという趣旨に通常は理解されるものであったということができ、前記認定によれば、山口の原告に対する認識も然りであった。

(3)  本件放送の放送原稿の資料となった長野県内企業倒産整理状況五八年一月報は、仔細に検討すれば、原告が倒産のうちでも、未だ企業解体の段階に至っていない場合であることを知り得る資料であったということができる。

(4)  したがって、山口は、提供された資料をもとに放送原稿を作成する場合の資料の理解、文言の選択及び情報内容の要約において、資料の内容と放送により視聴者が理解する内容とに食い違いが生じないよう、また原告に関係する内容が誤った趣旨で要約することにならないよう注意する義務を怠り、原告が未だ経営を存続することが可能な休業状態であったのに、原告が落合材木店としての経営を存続できなくなってしまったと一般に理解される趣旨となる本件放送の原稿を完成したもので、原稿の加筆修正において果たすべき右注意義務を怠った過失があるというべきである。

(5)  したがって、その余の点について判断するまでもなく被告長野放送は、原告に対し、本件放送部分の放送により原告が被った損害につき、使用者責任を負う。

4  損害について

(一)  営業損害

(1) 原告は本件放送部分の放送により従来の大口の納品先からの注文がなくなり、昭和五八年一月以降契約し、着工予定であった建築工事六件も解約され、原告の売上は激減し、本件放送以前に原告には年間二〇〇〇万円の所得が存したところ、今日なおその業績が回復しないとして、営業損害が五〇〇〇万円を超える旨主張し、この主張に副う原告本人尋問の結果部分も存する。

しかし、前記認定のとおり、原告は、本件放送当時、機械等を引き上げられたため休業状態であったから、仮に契約が解消され、売上が激減したとしても、その原因の第一は右休業状態あるいはこれに至るまでの経営不振にあるというべきであり、本件放送部分に原因が存すると直ちにいうことはできないから、右原告本人尋問の結果はにわかに措信できない。

(2) また、原告がそのかつての所得を証明するものであるとする甲第四号証ないし第六号証の各一、二は、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨に照らし、原告の所得が正確に記載されたものと認めるに足りる証拠ということはできず、他に本件放送部分の放送により、原告の得べかりし利益が減じたことを認めるに足りる的確な証拠はない。

(二)  精神的損害について

(1) 前記認定事実、<証拠>によれば、次の事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。

(ア) 原告は、本件放送を視聴していないが、これを視聴した得意先の者や原告の親戚から原告が倒産した旨の放映があったことを知らせる電話を受けたこと

(イ) 原告の母は、本件放送前は一週間に一度医者へ通っていたところ、本件放送部分の放送のため恥ずかしいからと病院に行くのを止めてしまい、昭和五八年春に死亡したこと、原告は長女を清泉女子学院高等学校に進学させる予定でいたところ、中学校の教師がこれを許さず、原告はこの原因が本件放送に存すると理解していること

(ウ) 被告長野放送はその認否及び主張9記載のとおり、同年二月二日に一回訂正放送をしたが、これは放送の性質上本件放送部分の放送を視聴した者及びこれらから情報が伝播された者に必ず伝えることのできるものではなく、原告は右訂正放送を聞いていないこと

(2) また、本件放送部分の放送により毀損されたものが本来は金銭的評価になじむ経済的信用であり、これを回復するために原告が行なわなければならなかったであろう行為も経済的評価になじむものであるといえること

(3) 長野県下に一般的にテレビで報道され、しかも報道番組における情報報道であったため、一般的にその内容に信用があり真実であると解されやすく、その影響力の大きさから、原告が自己の信用を回復するのは、多大の努力をもってしても困難であったと推認されること(この推認に反する原告本人尋問の結果は、本心からのものとは考えられず、原告本人尋問の結果から窺い得る原告の自己に対する否定的評価を受容し難い性格による供述あるいは当時原告が倒産状態にはなかったことを強調したいがための供述と考えられるから採用しない。)

(4) 右の諸般の事情を総合して勘案すると、原告が、本件放送により経済的信用を毀損されたことにより被った精神的苦痛に対する慰謝料は七〇万円をもって相当と判断する。

五以上検討したとおり、原告の請求は、被告データバンクに対し、七〇万円及びこれに対する昭和五八年九月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、被告長野放送に対し、七〇万円及びこれに対する昭和五八年九月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を請求する限度で理由があるから、この部分を認容し、被告長野放送及び被告データバンクに対するその余の部分及びその余の被告らに対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を仮執行宣言につき同法一九六条一項を(仮執行免脱宣言は相当でない。)それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山﨑健二 裁判官辻次郎 裁判官原道子)

別紙記事

現店主落合高治氏が昭和四九年七月開業したもので、一般製材業を主体に建築工事も行なっていた。しかし、当時はいわゆる住宅産業の不況に入った頃で、山間部という不利な立地も重なり、赤字経営が続いていた。

又、店主個人の住宅新築も重なり、資金の固定化を招き、多忙な繰り回しが続いたが、融手などで表面を糊塗する杜撰さも目立った。

このため、近時年間一億五〇〇〇万円内外の売り上げがあったものの、債権者から警戒されるに至り、昨年一二月S社長野営業所長名義で木材を販売したところ、S社の債務と相殺される結果となった。更に一二月二九日、債権者二社が原木や製品を引き上げたため、工場の稼働はできず、現在のところは休業状態に陥っている。

今後、営業再開は不可能と見られ、一月末に迫った支払手形約八〇〇万円の決済も不可能なもようから、事実上経営は行き詰った。

負債は、金融債務七五〇〇万円(含割引)、一般債務七五〇〇万円(内融手分三五〇〇万円)で総額一億五〇〇〇万円内外に達するもよう。

別紙長野県内企業倒産整理状況抜粋

(表題部)

長野県内企業倒産整理状況(負債一〇〇〇万円以上、内整理を含む)五八年一月報

(本文)

1 五八年一月の県内企業倒産(負債一〇〇〇万円以上、内整理を含む)は一七件、八億二六〇〇万円にとどまり、件数は昨年九月以来四月ぶりに二〇件を割る低水準で、前月、前年同月に比べそれぞれ九件減少、一月としては過去六番目の水準に落ち着いた。

(以下、中略)

3 一月中の主な倒産(負債一億円以上)

落合材木店 戸隠村 製材、建築工事 一億五〇〇〇万円

(三件省略)

上水内郡戸隠村の製材、建築工事事業落合材木店は地元では中堅クラスに属していたが木材の販売不振から赤字経営に陥り、債権者からの支援打ち切りもあって負債一億五〇〇〇万円を抱え行き詰まった。

(以下、省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!